ダリ展以来、約4年ぶりに京都市美術館へ。
目的は、リニューアル後初となる展覧会、「杉本 博司(ひろし) 瑠璃(るり)の浄土」。
本展は、雑誌「Casa BRUTUS(カーサ ブルータス )」で特集が組まれており、それを見てからというもの、オープンを心待ちにしていました。
…がコロナの影響で、オープンが2ヶ月もずれこみ、さらにしばらくの間は「京都府在住者」しか来館できない事態に。
「これ、ゴッホ展の時みたいに、見れないパターンちゃうん…」と心配していましたが、延期した日程分まるまる延長されることになり、その心配は杞憂(きゆう)に終わりました。
てな訳で、感想をば。
目次
杉本博司 瑠璃の浄土 in 京都市京セラ美術館|感想や写真とか
印象に残っている作品は、「Opticks(オプティクス)」と「海景(かいけい)」。
前者は、表現手法(+発想)に。後者はコンセプトに惹かれました。
- Opticks(オプティクス):プリズムで分光した光の階調を撮影したもの
- 海景(かいけい):「人類共通の原風景」と「生命の源」を1枚の写真にパッケージしたもの
Opticks(オプティクス)について
キャプション(作品解説)を見ずに見た感想は、「きれいなグラデーションやな〜」位です。
大判作品ゆえ俯瞰(ふかん)で見ると迫力があり、圧倒されるものがありますが、単体で見た際、特に惹かれるものはありませんでした。
色が何で形成されているかを知るまでは。
色面を構成する要素は、上述に示した通り、光の階調になります。それの変化、つまるところ、色相環”そのもの”を撮影した写真。それがこの作品の表現手法になります。
2010年1月3日午前5時台、まだ眠っていたとき、杉本博司さんから電話がかかってきた。「今日は撮れそうだから見に来れば?」。飛び起きてタクシーで杉本さんのアトリエに向かい、撮ったのがこれ。「OPTICKS」制作中/杉本博司新作「OPTICKS」|鈴木芳雄の「本と展覧会」 https://t.co/mOLgyXSsPa pic.twitter.com/tKIJnT7GAe
— 鈴木芳雄 (@fukuhen) July 18, 2020
色そのものを撮影しようという発想が一体どこから浮かぶのか?異次元すぎて、脳の処理が追いつかず、しばらくの間、呆(ほう)けたように魅入ってました。
なお、作品のコンセプトは以下の通りとなります。(めっちゃざっくりですが…)
これってまんま”社会におけるあらゆる事象に当てはめることができる”んではないかと。
つまり「本質とは、白黒はっきりしているものではなく、計り知れないものである」。
これまで写真で、構図や技術的なことに唸らさられても、被写体に唸らされることはありませんでした。
なので初です。被写体でこうきたか!と唸ったのは。
新たな写真表現の一端を垣間見ることができ、刺激的、かつ、良い時間を過ごせました。
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海景(かいけい)について
この作品に惹かれた理由は上述に示した通り、コンセプトです。
つまり、「人類共通の原風景」と万物の根源である「水」と「空気」を1枚の写真にパッケージ。
その壮大なスケールコンセプト、詩的な言い方をするのであれば「ロマン」ですね。そこに惹かれました。
…というのも技術的なものはさておき、被写体自体は超普通なんですよね。水平線の写真なんて旅行好きな人なら1枚は持ってるはず。また、構図についても典型的な二分割法なため、目新しさはない。
そのため、海岸沿いに行き写真を撮るとなれば、自ずとこういう切り取り方をするかと思います。写真の知識が浅くても。
(技術や表現手法には雲泥の差がありますが)パッと見は一緒ですよね。でも上の写真は作品たりえません。単なる記録物でしかないので。
被写体・構図ともに同じ。じゃあ作品と記録物を分けるラインは何かというと、「コンセプト」の有無ですよね。
それの有無、また、伝わるか伝わらないかは超重要だと思っています。(だから、ピカソは金持ちになった。)
ピカソという画家は極めて賢く、例えばなじみの画商たちを数十人呼び寄せて展覧会を開き、彼らに作品を描いた背景や意図を細かく説明したそうです。
絵が素晴らしいのは当然。しかし、「実はこの絵にはこんな物語があるんだよ」と説明を添えることで、絵に入れ込んでより錯覚するのです。— Richard Roe@奴隷キャリア二巻 (@4writingRoe) February 20, 2018
そこをきっちり提示してくれたおかげでとても印象深い作品となりました。
ちなみにこの作品、世界的ロックバンドであるU2(ユーツー)のアルバムのジャケ写にも用いられています。
その他、印象に残った作品
「護王神社の模型」と「ガラスの茶室」ですね。
特に護王神社は懐かしさも相まって、結構長い時間魅入ってました。
また、石室から見える景色を「海景」で再現するという粋な演出も施されており、旅の記憶をふと蘇らせてくれました。そういった意味でも印象に残っています。
杉本博司 瑠璃の浄土 in 京都市京セラ美術館|感想まとめ
総じて良い展覧会でした。
特にコンセプトが明確、かつ、小難しい表現ではなく、平易な表現に落とし込んでいる点は本当に素晴らしいなと思います。
アートって難しいんですよね…特に芸術を学んでいない立場からすると、感覚的に「良い・悪い(=刺さらない)」の判断はついても、それ以上のことは分からない。
だからキャプション(作品解説)に頼るわけですが、解説自体が難解 or 解釈自体を鑑賞者に委ねる作品も多々あり、結果、ビジュアルでしか良し悪しを判定できない。
それで結構歯痒い思いをしてきたので、ここまでわかりやすく提示してくれたのは本当に有難かったです。
そんな感じで。終わりッ!!
杉本博司「瑠璃の浄土展」は近代科学と伝統宗教が交差する、京都の地で開催するに相応しい展覧会だった。旅を終えた魂はどこに帰るのか?人生の究極の疑問を、最新技術を用いながら神道仏教のフィルターを通して問いかけてくる。まるで神秘に触れる感覚。日経新聞での杉本氏の連載も読み込みたい。 pic.twitter.com/NfA6ISQjDH
— grace (@6grace9) August 13, 2020