今年一番楽しみにしていた映画「We Margiela マルジェラと私たち」を見に行ってきました。(感想だけ見たい方はこちらをクリック→感想に飛ぶ▼)
ぼくがこれまでの人生においてもっとも熱狂的にハマったブランドである「メゾン マルタン マルジェラ」のドキュメンタリー映画。…ということでめちゃくちゃ楽しみにしていました。
ぼくは服が好きですが、これまで熱狂的にハマったブランドは「ナンバーナイン」、そして今回の映画の主役である「メゾン マルタン マルジェラ」。この2つだけです。
マルジェラに惹かれる理由は、人それぞれかと思いますが、ぼくが好きな理由は以下の通り。
- (特有の良い意味での)野暮ったさ
- 上質な日常着
- ユーモアに富んだデザイン
これに尽きます。
ぼくはいわゆるハイブランド特有の”格好(カッコ)“が”良すぎる”デザインがとても苦手です。
まぁ、要はいかにも”高いもの着てまっせ”ってドヤる感じですね。
マルジェラは、同じ価格帯の他のブランドに比べこの”ドヤ感”が少ない様に感じます。(今のマルジェラにはこの感じが若干あるけど…)
ラグジュアリーかつエレガントなスタイルも嫌いではないのですが、自分が着るとなると話は別。
ぼくがどちらというと”クラフトマンシップ溢れるリアルクローズ“が好みです。
リアルクローズを言い換えると、日常生活で着られる実用的な服ですね。
マルジェラの定番ラインなんかは、まさにそういったテイストのデザインが多く、おそらく誰が着ても似合うんじゃないかと。(エルボーパッチ、ドライバーズニット、八の字ライダーズ、ジャーマントレーナー、アナトミックパンツ etc、etc…)
そして、それらは一見普通の見た目ですが、随所にこだわりが散りばめられ、まさに”上質な素材で仕立てた日常着“といっても過言ではありません。
マルタン・マルジェラはわかりやすいヨーロッパのデザイン例。マルタンのやっていることは単純極まりない。一見誰にでもできそうなシンプルで簡単なこと。しかし、どうしてそれを思いつかなかったのかという、人間と人間の意識の隙間に落ちていたアイデアを拾い上げてくる。
— Shigeaki Arai (@mistertailer) 2019年2月4日
また、シンプルでベーシックなアイテムだけではなく、モード系ファッション特有の”攻めたデザイン”のものも当然多いです。
まぁ、ぼくは服でそういったものをチョイスすることは”あまり”ありませんが、アクセサリーなんかは どちらかというと”ユーモアセンス溢れるデザイン“の方が好みで、マルジェラにはそんなニーズに応えるアクセサリーがわんさかあります。
ワインのコルク、フォーク、スプーン、鍵、釘、クリップ、ルーペ、磁石など、様々なプロダクトを機能性の呪縛から解放し、アクセサリーへと転用したマルジェラ。日常的に身の回りにあるものがその面影を残しながら突然モードへワープしました。(´・ω・`) pic.twitter.com/GLpYX94DcU
— breathブレス (@breath01320219) 2019年1月19日
マルジェラに関しては、一時期 狂った様に買い漁っていた時期がありましたが、ぼくのワードローブの中には創業デザイナーである「マルタン・マルジェラ」が在籍していた頃のものは”ほとんど”ありません。
…というのも「マルタン・マルジェラ」は2009年以降メゾンのデザインには関わっておらず、2009年〜2014年は彼と一緒に仕事をしてきた「デザイン・チーム」が、そして2015年以降は現マルジェラのデザイナーである「ジョン・ガリアーノ」がデザインを担当しています。
「マルタン・マルジェラ」自身は、退任後、新しいブランドを立ち上げる訳でも他のメゾンに移籍する訳でもなく、ひっそりと引退。表舞台からは姿を消してしまいました。
そんな彼にスポットを当てた映画が『We Margiela マルジェラと私たち』です。
映画『We Margiela マルジェラと私たち』|感想
結論からいうと「退屈」でした。マルジェラに関しては服のデザインのみならずバックグラウンド(背景)や思想・哲学含め好きですが、そんなブランド自体に対する関心が強いぼくが見ても「退屈」でした。
なので、マルジェラに全く興味がない方が見たら、かなりツラい時間を過ごすことになるかと思います。
ぼくがファッション映画でもっとも好きなのは「ディオールと私」ですが、この映画では、豊富な経験と実績を持つデザイナーであるラフ・シモンズが大きなプレッシャーに押しつぶされそうになりながらも、チーム一丸(いちがん)となってコレクションを完遂させるという”それはそれは”大きなカタルシスがありました。
「ディオールと私」は、あの世界的なグランメゾンでさえ、プレス内覧会の数時間前までドレスの刺繍が終わってないという綱渡りをしている事実が明らかになり、あらゆる修羅場はどのようなメンバーでも避けがたくまた何ほどのこともないという勇気をもらえるので、堂々と〆切に立ち向かえる映画だよ!!
— 清水 (@shimizuakila) 2017年12月31日
そういったカタルシス、いわば感情に訴えかけてくるものが「We Margiela マルジェラと私たち」には皆無。
なんせ当の本人は出てこず、マルジェラと関わったことのある人が昔の思い出話をするだけなのでかなりキツいものがありました。
ただ、いくつか興味深いことも。
- ラフ・シモンズも感銘を受けたコレクション、空き地のショーが見れた。
- 「ドールコレクション」の制作秘話が聞けた。当時は大きなまち針がなく、ホウキの柄で作ったとのこと。
- アルチザンの一人が見れた。アーティザナルラインの一つ”靴下200足を使ったジャケット”の制作秘話も。
- 「カビドレス」のインスタレーションは、多忙なマルジェラに代わり、スタッフが考案したとのこと。
そして、もっとも衝撃的だったのはマルジェラが「最低賃金で働いていた上、休みもほぼ無かった」ということ。
マルジェラは一介のデザイナーではありません。
反モードを掲げ、それまでの流れとは真逆の価値観を提示。また、衣類を解体・再構築・再定義し、それまで埋もれていた物に新しい価値を付加するなど、ファッション業界に新たな流れを持ち込んだ人物です。
その影響力は凄まじく、今をときめくデザイナーでマルジェラの影響を受けていない人はいないんじゃないかな…と思えるほど。
今一番話題を呼べるデザイナーは、マルジェラ出身者で、かつマルタン本人とも仕事してきたキャリアがあるとベスト。そう思うほど、最近の業界はマルジェラ出身者の起用がかなり目立つ。ファッション界を去ってもなお影響を及ぼすマルタン・マルジェラには恐れ入る。
— Shigeaki Arai (@mistertailer) 2017年11月17日
以下、羅列。
マルジェラはビジネス的な側面に全く興味が無かった。そのため、何度も倒産危機があった。
共同創設者「ジェニー・メレンズ」曰く、彼は服を作りはするけど、(売り上げの)責任を負いたがらなかった。
アイデアが一瞬で形になればいいがそんなことはありえない。服の場合、「半年」を要する。
(会社の継続に関わることなので)コレクションのプレッシャーはとてつもないもの。
なので、会社の規模が拡大し、背負うものが大きくなるにつれ不安も増していったとのこと。
そんな日々が続き、創業者である「マルタン・マルジェラ」「ジェニー・メレンズ」共々疲れ切り、会社をディーゼルへ買収。
そして「ジェニー・メレンズ」は引退。数年後、後を追う様にマルジェラも。
以降、ブランドは商業路線へ。
わかりやすい変化として「コレクションショー」が一変。
モデルは一般人ではなくプロをキャスティングする様に。また、リアーナの様な有名人も起用。
曰く「ショービズの世界では分かりやすさが一番。回りくどい表現はいらない。」
2012年には、大手ファストファッションブランド「H&M」ともコラボ。知名度もアップし、新規顧客もGET。
2015年、デザイナーが「デザイン・チーム」から華美なデザインを得意とする「ジョン・ガリアーノ」へ。
それに伴いブランド名も「メゾン マルタン マルジェラ」から(創業者の)ファーストネームを排し「メゾン マルジェラ」に。
ハンドメイド的な要素はなくなった代わりに、洋服としてのクオリティは上がり適度な野暮ったさも皆無に。
「マイノリティ」から「マジョリティ」へ。ビジネス的にも大成功。
マルジェラ本人はディーゼル買収後に得た資金で悠々と隠居生活を決め込みましたとさ。
マルタンのいた頃のマルジェラは静かな主張と反抗心 あとやっぱり既成概念の美しい物への懐疑や古着の再構築やレプリカなんかは本当に素晴らしいアイデアと服だと思う。
今のメゾンマルジェラに足りないのは
ただ一つシンプルで素朴さが消えたこと。
そこがマルタンの一番の良さだったと思っている— fashionvictim (@tokyofashionlab) 2019年2月13日
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