手塚治虫記念館で開催中の「よつばと!原画展」へ行ってきました。
自粛明け1発目の展覧会、しかも展示作品は、大好きな漫画「よつばと!」の原画ということも相まって非常に楽しみにしておりました。
てな訳で感想をば。
目次
白い原稿用紙の「圧(あつ)」たるや…漫画家凄すぎ
入り口に入ってまず出迎えてくれるのは、何も書かれていない原稿用紙です。
これは虚をつかれました。なにせ原画展なんで。当然、ペン入れされた原稿、ないしは、ネームから始まるもんだと思っていました。
下部に設置されていたキャプション(作品の説明書き)には…「当たり前ですが、最初は何も書かれていません。ここから試行錯誤を重ね、絵や物語が紡がれていきます。」といった記載が。
これを見て思ったことは、「恐ろしいな」です。
…というのも、ぼくはデザインを生業(なりわい)にしていますが、デザインとは「商品ありき」です。
つまり、商品を売るという課題に対して、どのような文言やビジュアルであれば、刺さるか。
その方向性を決めるため、年齢や性別、リテラシーなどでペルソナ(ユーザー像)を設定します。それで、凡そイメージの絞り込みができてくるんですよね。
そのため、「やべぇ..何一つ浮かべねぇ…」ってことは基本ないです。
対し、漫画って作家性、つまり「既に在るもの」ではなく、「自身で生み出していくもの」だと思います。
特に「よつばと!」みたいなフィクションに属する漫画は。
…となると、ストーリーやキャラクター、演出(魅せ方)、セリフはもちろんのこと、一話完結式あればオチを。
そうでなければ、引きの強い終わり方までをも考えなければなりません。
そして、それらを規定のページ数以内に収める必要があります。
当然、締め切りまでに。
…って考えた時、何も書かれていない原稿用紙の圧ったらないです。マジで怖い。凄みすら感じました。
どう生きてきたら、こんな話を思いつき、具現化できるのか…
「白紙の原稿用紙」を前にすると、畏怖(いふ)の念を抱かざるを得ないですね。
改めて漫画家って凄いんだなーと。そんなことを感じさせてくれる展示作品でした。
よつばと!のコマ割りはオーソドックス。
変則的なコマ割りは一切なく、キチッ、キチッと区切ってるなーと。
悪く(?)言えば、THE・普通。よく言えば、非常に分かりやすい構成だなと思いました。
ぼくが好きな漫画のジャンルは、バトル系やスポーツ系ですが、これらのジャンルって変則的なコマ割りが多用されているんですよね。
それで、躍動感や迫力だったりを演出しているわけですが、個人的にはそっちの方が好きです。ハラハラ・ドキドキといった高揚感やスリルを与えてくれるので。
よつばと!の場合、ジャンルが日常系であること。
また、小さい子供も見ることから、あえて時系列が分かりやすいオーソドックスなコマ割りを採用しているのかな?
まぁー、ドラマティックな展開なんかは当然ないので、必要ないっちゃ必要ないですもんね。
前作「あずまんが大王」の時は、4コマだったので、コマ割りに注視することは無かったですが、(よつばと!に関しても)そこに変化はなく、4コマの延長線上といった感じですね。
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よつばと!は、背景の書き込みが凄い
コミックスでも十二分に”その凄さ”を感じていましたが、改めて。
街並みなどの景色はもちろんのこと、場を成立させるためだけに存在する”モブキャラ”に関しても、きちんと描いてるのは、単純に凄いと思います。
まぁー背景を凝ることに関しては、物語を阻害する要素にもなり得るため、一概に「緻密な書き込み=正義」ではないかと思いますが、日常系では”あり寄り”の考えなのかなーと。
…というのも、日常系=特別なことは起こらない、いわば暮らしの中でつい見過ごされている出来事を掬(すく)っていく話がメインなため、ことさら背景に説得力を持たすことは重要なんじゃ無いかと。
昔、漫勉(まんべん)という番組で「浅野いにお 」さんが、暮らしの土台としてまず街がある。次いでそこに暮らす人々。
だから背景をおざなりにする訳にはいかない…と仰っていましたが、よつばと!にも通じるものがあるのかなーと思ったり。
「漫勉:浅野いにお」(2)
「どういう場所かっていうことがまず最初に決まっていないと何も想像できない」
「舞台として町というものがあった上で、そこに暮らす人たちという順番になるので、景色とか背景の方がまず先にあって、むしろそっちの方がメインということもあると思うんですね」— 斉同動詞 (@seidodousi) October 1, 2015
なお、よつばと!の背景で好きなのは、8巻収録の「よつばとたいふう」の雨の描写です。個人的に、土砂降りの表現で、この回に勝る漫画はないと思っています。
よつばと!は加筆、修正が凄い
コミックスは、雑誌と違い、作品としてずっと残るものなので、ほとんどの漫画家さんが加筆・修正を行っていると思いますが、よつばと!も例に漏れず。
この原画展で展示されていたのは、「よつばとまえのひ」に収録されているスーパーでの1シーン。
よつばが「みんなー」と呼びかけ、近くにいるお客さんが振り向くというシーンですが、コミックスと雑誌では、若干違う構図に。
細かい修正ですが、見比べてみると印象が全然違うんですよね。
- Before(雑誌掲載時):近くのお客さんに呼びかけてるようなイメージ
- After(コミックス):結構離れてるお客さんにまで声が届いてるイメージ
見ている人のほとんどが気づかない(気にしない)レベルの修正かと思いますが、詰めの甘さって気づく人は気づくんですよね…
そして、その「まぁーいいか」の積み重ねが後々大きな差になる訳で。。
そのため、一流の人ほど細部まで徹底的にこだわり抜いてるイメージです。
こだわりの強さ、言い換えるならば、美意識の高さが一流たる所以(ゆえん)ですね。
そんなことを感じさせてくれる展示作品でした。
1番良かった展示物は、コミックスの表紙を拡大したもの
個人的に1番グッときたのは、コミックスの表紙を拡大したもの。
コミックスのサイズはB6 (横128 × 縦182 mm)ですが、この原画展では、A4(横210 × 縦297 mm)サイズまで拡大されていました。
漫画展で展示されている一枚絵ってすごく好きなんですよねー。
生原稿も感動するっちゃするんですが、(展示されている)原稿に関しては、基本”清書済みの原稿”のため、コミックスと大差がない訳です。
好きな作品なので、当然本編は読み込んでるし、言うなれば、ぼくは漫画家ではないので、線の引き方やトーンの使い方など、いわゆるテクニック的なことには”それほど”興味はありません。
なので、(漫画本編の)原稿よりかは、表紙や扉絵、挿絵、画集の描き下ろしイラストなど、普段フィーチャーされないものがバーンと展示されている方がテンションが上がります。
3巻は郷愁(きょうしゅう)にかられる点に惹かれ、12巻は画面を構成する要素の全てが好きです。
12巻表紙のロゴなし。単行本に収録のお話の後、キャンプ場でやってたミニイベントで風船をもらってきた、てな感じです。みうらはよつばが風船を放すことを警戒しています。
— あずまきよひこ (@azumakiyohiko) March 20, 2013
展示物の中にハチクロの漫画が!? 理由はおそらく…
これは、笑っちゃいました。
なぜ展示されているかというと、5巻収録の「よつばとてつだい」で、風香ちゃんの読んでる本が「ハチミツとクローバー(通称:ハチクロ)」だからです。
で、そもそもなんで作中にハチクロを登場させようと思ったのか…
その理由は、(おそらく)「とーちゃんが履いてるトランクスの柄」と「3月のライオンの”あかりさん”が着ている服の柄」が被ったところからきているのではないかと。
なんでも、作者である”あずまきよひこ”さんと”羽海野チカ”さんがよく行く画材屋(?)が一緒らしく、そこで同じスクリーントーンを購入…
それを”あずまきよひこ”さんは、トランクス(パンツ)に。”羽海野チカ”さんは、あかりさんのワンピースに使用したという訳です。
これ3月のライオンの巻末で、ネタにされてたんですよねww それを思い出して笑っちゃいました。
そうそう3月のライオンであかりさんのワンピースの柄(トーン)がよつばと!のとーちゃんのパンツの柄と同じだった事は有名ですが、原画展であずまさんの直筆色紙に、とーちゃんとよつばが仁王立ちでそのパンツ履いてるイラスト描いてあって、あかりさんごめんなさいって書いてた(笑)
— 花桃さえ❁ (@katou_sae) August 5, 2013
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よつばと!原画展|まとめ
日常系は、バトル漫画と違い、起承転結がどうしても弱くなるので、難しいジャンルかと思います。
原画のみならず、数多くのネームも展示されていましたが、その数の膨大さをみると、1話作るだけでも、身骨を砕くような苦労が伴ってるんだなーと。(当たり前ですが…)
そして、それだけ苦労して描いても、「面白いか」「面白くないか」の評価は一瞬。
そんな厳しい世界の一端に触れられたのと、あとは好きな作品の生原稿や裏側を見れたのが良かったです。
よつばと!原画展
構図や背景へのこだわりがとても細かで、書き直し部分とホワイト部分を見比べられたり、ネームの行程を見られるのがとても良かった。1コマ1コマの表情や話の流れがすごく丁寧に考慮されてるんだなあ。
私は強めの明暗や雨の描写が特に好き。 pic.twitter.com/OQCi2yduZn— マリアンヌ (@mariannecafe) June 23, 2020
そんな感じで。終わりッ!!
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よつばと!原画展2020 in 宝塚市立手塚治虫記念館:概要
開催期間 | 2020年年6月8日(月)〜 10月18日(日) | ||||||||||||
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開館時間 | 9時30分~17時(入館は16時30分まで) | ||||||||||||
入館料 |
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定休日 | 毎週水曜日(祝日と重なる日・春休み及び夏休み中は開館) | ||||||||||||
電話番号 | 0797-81-2970 | ||||||||||||
所在地 | 兵庫県宝塚市武庫川町7−65 | ||||||||||||
HP | 手塚治虫記念館 |